効果的な子どもへの支援

役割の有用性

相談者の中でよく見かける方は、母親ひとりが父親役や兄弟、教師、カウンセラーなどの役割も引き受けて、子どもの支援をしている母親です。それでは最初はスムーズにすることができていても、途中から母親自身が息切れしてきてしまい、母子ともに動けなくなることが多々あります。

どんなに母親がひとりでがんばりたくても、何役も担うことはできませんし、仮にがんばったとしても、実はあまり効果的ではありません。そこで、息切れせずに効果的に支援するためには、「役割」を分担するということが大切です。ここで言う「役割」とは関わり方も含まれます。父親的な役割、母親的な役割、兄弟姉妹的な役割、祖父母的な役割、友人的な関わり、教師的な関わりが主だったもので重要になってきます。

実際には家族、親戚、友人、地域の人、学校の先生(担任を含む先生方、クラブの顧問等)、塾の講師、習い事の先生、フリースクール等の先生方、バイト先の人たちなどが含まれ、それぞれが先にあげた何らかの役割を担っています。

例えば、演劇でもみんなが主役、みんなが同じ役割をしたら、劇として成立しません。主役がいて、準主役がいて、脇役がいて、端役がいて、エキストラがいて、大道具等をつくる裏方がいて、それを統括する演出家がいて、はじめて動き出すことができ、作品が出来上がります。みんながそれぞれの役割を担うことが大切です。

実は家族も同じです。しかし中には、父親と母親が同じ役割をしていたり、父親と母親の役割が反対になっていたり、子どもが母親的な役割を担っていたりなど、うまく役割が機能していない場合も多くみかけます。このようなことが長期にわたると、徐々に子どもからの信頼も薄れてきてしまいます。また昨今男性が子育てに参加するようになり、以前より役割の区別が明確でなくなってきていますが、男性が父親的の役割を、女性が母親的の役割を担うほうが無理なく行動できると思います。

ここでは、父親的、母親的役割と表現していますが、これはいわゆる父性、母性のことです。単純に父親だから、母親だからと考えるのではなく、もっと拡大して父親的な役割をやる人、母親的な役割をやる人と考える方が今の時代にあっていると思います。

つまり、父親不在の場合でも父親の役割を担ってくれる人がいてくれたらいいわけです。子どもが幼少期の場合は祖父、親戚のおじさん、近所のおじさん、男性の保育士などにお願いして、母親が率先して外に目を向けることが大切です。子どもが成長したら、その子ども自身が選んでいくようになります。男の子の場合は、クラブの顧問やバイト先の社員や先輩などがその役目を担ってくれる場合が多いようです。
女の子の場合ですと、それまでに「おとなの男の人」とどれくらい接してきたかで、変わってきます。「おとなの男の人」に対して苦手意識を持っている子の場合は、やさしい雰囲気の人が適しています。幼少期に父親が怖いというイメージを持ち、また体験した子も同じです。そして母親がいない場合も同じです。父親不在の場合と同様に、幼少期は祖母、親戚のおばさん、近所のおばさん、幼稚園や保育園の先生などに父親が率先して働きかけることが必要です。ある程度父親がお願いするのがいいでしょう。小学校時代は、比較的女性の先生が多いので、そこでお願いするのも有効的です。

子どもが成長した場合は、自分で決めてもらうのがよいでしょう。もちろん母親、父親の交際相手、再婚相手も対象になります。

母親的役割と父親的役割

【母親的役割】   キーワード:育てる 守る 包み込む

母親は、子どもを一番近くで見守り育てる存在です。日常生活においても父親より細かく世話をします。母親的役割としては、言葉かけも大事ですが、スキンシップ(触れること)が重要です。子どもの年齢が小さいときや女の子であるときは、それほど抵抗なくスキンシップができると思います。しかし男の子の場合は、思春期以降になると、抵抗を感じる方も少なくないと思います。そのときは、隣に座ったり、同じ部屋に布団を並べて敷いて寝たり、一緒に何か(夕食を一緒に作るなど)をすることでスキンシップの役割を果たします。要するに母親の存在そのものを感じられる距離にいることが大切です。

また父親の権威を保つことも母親の重要な役目です。母親が父親を軽視にした言葉や態度を示すと、自ずと子ども達も父親を軽視にします。その点についても母親は考慮して行動することが望まれます。

==注意点==   母親には包み込む面と呑み込む面の両面がある
母親は、自分を犠牲にしてでも子どもを守り育てる面があり、そのため子ども達は安心して様々なことにチャレンジし、巣立つ(自立する)ことができます。一方、呑み込む面が前面に出てくると、子どもの自立は難しくなります。つまり過保護で親が先に先にレールを引いてしまう、何でも自分の思った通りにさせないと気がすまない、かわいくて、かわいくて誰にも渡したくないなどの面が母親に強く出てしまうと、子どもが何か新しいことに挑戦しようという気持ちが芽生えなかったり、芽生えたとしても阻止したりというようにしてしまいかねません。これらは子どもに対する愛情の過度の状態ともいえます。

例えば、いい子といわれる子によくある行動ですが、返事をするとき母親の顔を見てから返事をする、ということがあります。これは母親の呑み込む面に支配されている子どもの状態をあらわしており、母親からみた場合は自分にとって都合のよい返事をしていますので、とてもいい子に映ります。しかし傍から見たときはその子どもの自主性や自分の考えというものを表現できないぐらい強制されてしまったと映ります。そしてその場合往々にしてその母親は、そのことに気づいていないことが多く、自分はいい母親であり、子どもはとてもいい子と認識しています。
できればときどき立ち止まり、自分と子どもの関係を第三者的に見てほしいと思います。

【父親的役割】   キーワード:断ち切る 押し出す 叱る 突き放す

 父親的役割としては、『断ち切る』『押し出す』というものがあります。母親と子どもの関係に割って入っていく、「外」に出ることに躊躇する子どもの背中を押し出すなど、ある程度成長してきたとき、父親の存在が重要になってきます。この力が働くことで、子どもの自立の道が開かれていきます。

子どもが不登校の場合は、第4段階(※P35 早見表P39 不登校の7段階参照)に来たら、父親に積極的にサポートしてもらうとよいでしょう。また父親のもうひとつの重要な役目は、母親を支えることです。基本的に母親が一番近くで子どものサポートをします。その母親のサポートをするのが、父親の役割です。たまに夫婦二人で外出したり、感謝の言葉を一言伝えると、母親の心にゆとりが生まれ子どもを大きく包み込めるようになります。そのためにも積極的に取り組みましょう。

子どもにあまり関心がない父親の場合はいかに父親に参加してもらうかが課題となります。
そのためには、何かひとつでいいですから母親の方から父親に歩み寄ることを心掛けていきましょう。例えばどんなに忙しくても必ず朝「行ってらっしゃい」と送り出す、夕食には一品夫の好物を必ず出す、などです。大事なことは、やると決めたことは毎日必ずやることです。実際に毎日「行ってらっしゃい」と母親が父親を送り出すことを続けた結果、それまで母親任せだった子どもの不登校の問題にも積極的に関わってくれるようになった父親の例もあります。あきらめる前に一度取り組んでほしいと思います。

==注意点==   不登校の初期段階で押し出す・叱るだけでは、子どもが萎縮してしまう
不登校の初期段階は、子どものがんばろうとするエネルギーがほとんど空になった状態です。40度の高熱で寝ている子に根性でがんばれと無理に学校に行かせるようなものです。ですからこの段階では、無理に引っぱる、押し出す、強い調子で叱るということは我慢してください。焦らず子どもが動き出すとき(第4段階)まで待ちましょう。

また、自分の辛かった体験談を話される方もいらっしゃいますが、ただ自分もこんなふうに辛かった、大変だったという気持ちを話すのは良いのですが、教訓的な話は「今のお前はまだがんばりが足りない」と子どもには“今”を否定されているように伝わります。この時点では、やはり我慢して下さい。その話は「お前もがんばってよく乗り越えたな」と共感を持ちながら話せるとき、子どもが苦しい段階を脱したときまでの楽しみにしておきましょう。