「あなたならどうしますか」
これから、Q1~Q20質問(事例)を一緒に考えてみたいと思います。その時、親や子どものどちらの気持ちに寄せるかで、物事の本質が見え隠れすると思います。そのことに注意して一緒に考えてみましょう。
親への要求・期待が隠れている
一番多いのは、やはり子どもが親に対してみせる行動についての質問です。
★「本気で関わって」というメッセージ
Q⒈ 恥ずかしい話なんですが、父親の財布からお金を取ったみたいなんです。本人には確かめていないのですが、他の家族に聞いても知らないと言ってましたし、財布も今のテーブルに無造作に置いていたようなんです。金額は2万円です。
Q⒉ 「ゲームを買え」、「マンガを買え」とかいろいろ要求してくるんです。時には「自殺用のロープを買って来い」ということまで言い出します。「お前のせいなんだから当然だろ」とまで言われます。そう言われると、わたしのせいかなとも思ってしまい、どうやって償おうかと考えてしまいます。ロープは買うつもりはありませんが、その他のことは子どもの言うとおりにした方がいいんでしょうか。
Q⒈、Q⒉の質問事項は全く違うものに見えますね。しかし、どちらの質問の根底にあるものは同じことです。それは、「わたしに、僕に本気で関わって!」ということです。質問してくださった保護者の方にはどちらもお子さんに対する遠慮があります。それは、Q⒈では、他の家族には聞いているが、その子には確認ができない、Q⒉では、親が「わたしのせいかなとも思ってしまい、どうやって償おうか」「子どもの言うとおりにしようか」と考えているところにあらわれています。でも親がこのように思ってしまうのも当然です。一番近くで、一番多く接しているのですから。こんなときは、あえて少し距離をとって子どもに接すると、見え方が違ってきます。ぜひ試してください。
さて話をQ⒈とQ⒉に戻しましょう。
親の遠慮を子どもは敏感にとらえ、寂しさを感じています。
子どもにしてみれば、今のしんどい状況を乗り切るのに親のサポートが絶対必要なのに、親の方が遠慮していたら子どもは不安で仕方がありません。
それまでにも子ども達はいろんなサインを発信しているのですが、なかなか気づいてもらえず、最終的にわかりやすい言葉や行動で訴えかけてきます。
Q⒈もQ⒉も、「これなら絶対怒られる」ことをしたり、言ったりしていますね。子どもがここまで真剣に求めてきていることに対して親も当然真剣に応えていく必要があります。
親も「自分のせいではないか」「ここで叱ったらもっと殻にこもってしまうのではないか」と不安で一杯でしょう。でも勇気を出してください。自信を持ってください。
子どもが求めているのは、他の誰でもない親なのですから。
本気でぶつかったとき、小さいかもしれませんが変化は確実に訪れます。
実際今は人と本気でぶつかるという機会が減っています。友だち同士で本気でケンカすることも意見をぶつけることも少なくなっています。その分、親が本気でケンカしたり意見を交換する練習台になる必要が生じます。親として本気で、真剣に子どもに向き合いましょう。
次の例も先の例の変形です。
★「自立したい・信用して」というメッセージ
Q⒊ 学校へ行かなくなった息子に「お前はご飯だけ作っておけばいいんだ」と。言われてしまいました。それだけしていたらいいんでしょうか。もっと他にすることがあると思うんですけど。
少しQ⒊について補足説明をします。この質問をしてくださった保護者は、子どもが小さいときから、できうる限り子どもが前に進みやすいように先回りしていたというお話でした。その子が学校へ行けなくなったとき、母親に対してした発言です。思いあたる方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。
皆さんならこのように言われたらどうしますか。黙って見ていられますか。それともやっぱり心配で手を出してしまいますか。
Q⒉のように子どもから親への要求ですが、この発言の根底にあるのは「もっと僕を信用して」というメッセージです。
「今まで何でも準備してくれたけど僕も成長して、いろんなことができるようになったんだよ。少しずつ自立していきたいんだ、僕のことを信用して黙って見ていて」
このように子どもから言われたら、自己決定力、自己責任の力を育てるよい機会ととらえましょう。最初は忍耐の要ることかもしれません。しかし、子どもはいずれ一人立ちしていきます。成長を見守りましょう。
このように親に対するわがままにしか見えない発言ですが、その根底には親への期待が隠れています。そのメッセージを見つけていきましょう、ということも教室の中でお話しております。これができると、親の中でこころに余裕が生まれてきます。余裕が生まれたら、子どもへの対応にも余裕ができ、変化が生じます。皆さんにもぜひ体験していただきたいと思います。
もうひとつ、わがままな発言に関連した次の質問をみてみましょう。
Q⒋ 「催眠療法を受けたい」と子どもが言っているのですが、受けさせた方がいいのでしょうか?かなりの額で30万円~40万円かかるみたいですが。
この質問は、子どもから親へのかなりエスカレートした要求にみえますね。このような発言(要求)は、それまで子どもの要求をほぼ全てにわたり叶えてきたときにみられます。
しかしその背後に「何とか変わりたい、だからお父さんお母さん助けて!」というメッセージが隠れています。だからといってすぐに行動に移すのはこの場合はあまり有効ではありません。
親としてできることは、情報を集め、メリット・デメリットを整理し、必要なら代替案も用意します。そして、親としての立場から子どもに説明し一緒に考えることです。できるなら、子どものつらさ、しんどさを分かちあえたら、さらにいいでしょう。注意事項としては、子どもの言葉にあまり左右されないことです。
次の質問に移りましょう。
★「甘えたい」というメッセージ
Q⒌ 高校一年の娘ですが、わたし(母親)が叱ると、その後ずっとわたし(母親)のそばを離れません。妹がいるのですが、妹がわたし(母親)に話しかけるだけで、不機嫌になり妹にあたって困っています。
この場合は、子どもの中でとても不安な気持ちが強いのだと考えられます。特に叱られたあとにそのような行動が出るというのは、「捨てられたらどうしよう・・・」というものすごく強い見捨てられ不安や「捨てられるかもしれないことをわたしはしたんだ」という罪の意識のあらわれが根底に隠れています。
兄弟が親と仲良く話をしていたり、何かをしているのを見たときにも同じように不安感情が顔を出します。そのようなとき、「親をとられるかもしれない」という不安は怒りに変わり兄弟へ向けられます。特に弟妹が対象の場合には、それが顕著にあらわれます。
中学生や高校生になっても露骨に甘えてくるときは、不安感、恐怖心などが隠れていることが多々あります。親はその部分を汲みとってあげ、不安や恐怖を取り除くような言葉かけや行動をすることがとても大切です。例えば、顔を見て「おはよう」と声をかける、一緒に食事をする、ルールを破ったら本気で叱るなどです。それを繰り返しすることで、やがて子どものこころはほぐれてきます。そして最終的は落ち着きを取り戻し、べったり甘えてくることも消えていきます。
ここでの注意事項は、何でも子どもの言いなりにならないことです。何でもしてあげることが、愛しているという表現では決してありません。そして、自分もこの家族の一員だという意識を育てていきましょう。
怒りの矛先になった兄弟へのフォローも忘れずしてください。そのとき注意していただきたいのは、その子と一緒になって怒りをあらわした兄弟の悪口を言わない、ということです。
Q⒌の変型判です。
Q⒍ 娘なんですが父親にべったり甘えて、母親のわたしにはとてもキツク当たるんです。時には暴力まではいかないですが、手をあげてきます。もう高校生ですので、あそこまで父親にべったりというのもどうかと思うのですが・・・どうしたらいいんでしょう・・・
Q⒍は親に甘えている行動はQ⒋と同じなのですが、両親への態度が全く違います。これは両親の子どもに対する考え方が違うときによくみられます。両親がそれぞれの考え方で子どもに接していると、当然ですが子どもは自分に都合のよい方法を選択します。その子どもの言動を見て、両親がさらにもめたりすると、子どもは自分に都合のよい親の味方をします。反対意見を言う親に対しては「わたしのことを理解してくれない人」として敵対心を持つ場合もあります。Q6.のように、親子の性別が違うとさらに親を自分の味方にしようと上手に甘える行為をして、問題を複雑にしてしまう傾向があります。
できうる限り夫婦で話し合い、意見を一致させてください。それが子どもが混乱しない一番の方法で、かつ早道です。
言葉のかけ方
ここまでは子どもが親に対して示した言動についての質問でしたが、次に親が子どもにかける言葉かけの質問に移りましょう。
子どもが学校へ行かなくなると、どのように声をかけたらいいのかわからなくなる保護者の方もたくさんいらっしゃいます。
では皆さんから本当によく出る質問からみましょう。
Q⒎ 学校を休み始めた子どもに「もっとがんばりなさい」と言いたいのですが、言ってはいけないのでしょうか。
〝がんばる〟という言葉は日本人の好きな言葉ですね。だから一般的にも応援の言葉として抵抗なく使います。Q⒎も励ましのつもりなのだと思いますが、時と場合によっては重荷に、あるいは責められていると感じさせてしまう場合があります。
子どもは休むまでに相当がんばっています。ほとんどの場合、子ども達は誰にも相談できずに、何より親にだけは知られたくないという想いから、いろんなことを自分ひとりで抱えています。それが抱えきれなくなったとき、動けなくなるわけです。そして大概子ども達は、「助けてという気持ち」と一緒に「自分を責める気持ち」も同時に持ち合わせています。
そのような状態の子に「もっとがんばりなさい」というのは時期尚早でしょう。それでも言いたくなったら、ご自分がしんどいときにそのように言われたらどんな気持ちがするか、想像してみてください。きっと踏みとどまれると思います。
次の段階(少し休んで力が戻ってきた段階)に入るまで待ってください。そのときが来たら「がんばる時期が来たね」と声かけをしましょう。この時期に入ると「そっとしておかれるより、励ましの言葉のほうが嬉しい」という子どももいます。思い切って声をかけてください。
このように親は子どものためと思って言っているつもりでも、逆効果に働くことがあります。どのように声をかけたらいいのか、もし迷ったら「自分が親から言われたらどう感じるか?」を想像しましょう。
皆さん今は親ですが、学生時代を過ごしてきています。例え不登校の体験がなくても、学校に行きたくなかったことはあるでしょうし、人間関係のトラブルに巻き込まれたことも一度や二度はあったと思います。想像力をぜひ使ってください。そのときの注意事項です。自分の体験(例えばお父さんも苦しかったけど、こうやって乗り越えたんだ、というような)を話されるのは構いませんが、そこからお説教や自慢話に繋げていくことは避けましょう。ご自分の体験を話されるときのコツは、そのときにどんなことを感じたか、という気持ちに焦点を当てることです。
Q⒏ 進学校へ通っていた子どもに、以前は「何のために今までがんばってきたの!」と言って無理やり引っ張っていましたが、子どもが完全に引きこもってからは、怖くなって何も言えなくなりました。このままでいいのでしょうか。
Q⒏は声をかけるのが怖くなって、なんて子どもに声をかけたらいいのか全くわからなくなってしまった例です。このような質問は、進学校へ通学されている子どもがいらっしゃる保護者、私立の中高一貫校に通われている子どものいらっしゃる保護者の方によくみられます。別の言い方をしますと、子どもに対して親の期待がとても大きい場合です。
この質問の根底にあるものは大きな落胆と後悔、不安感と恐怖感です。
それまで子どものために本当にがんばってきて、子どもも親の期待に応え、全てが順調に進んでいたときに急に起こった子どもの大変化です。まず親のこころに顔を出すのが落胆です。期待が大きかった分だけ落胆は大きくなります。
そしてその次に顔を出すのが、「無理やりがんばらせすぎたのではないか」「あのときもっと違う対応をしていたらこんなことにはならなかったのではないか」という後悔の気持ちです。
ご自分のせいだと思われている保護者の方が多いのではないでしょうか。自分が無理やりがんばらせたから引きこもってしまったのではないか、というように。だからまた自分が何か言ったら、何かしたらもっと悪くなってしまうのではないかと、とても不安なんだと思います。
しかし何も言わないのも不自然ですし、急にやさしくされてもお子さんは混乱するだけですから、今は日常会話に徹しましょう。例えば、「ご飯出来たよ」「買い物行くけど一緒に行く(何かほしいものある)?」など、学校へ行っていても行っていなくてもする会話を中心にしてください。
それから自分の発言や行動に対して反省するのは構いませんが、罪の意識は感じないでください。そのときにしたことは精一杯だったこと、それに応えようとしてくれていた子どもさんのがんばる力とその子が示した母親への信頼感に目を向けてください。『自分の子はこんなにがんばれるんだ』ということに改めて気づきを持つことがとても大切です。そして今は休憩期間と割り切ることも大切です。長いスパンで物事をとらえる練習を親のほうがするのもよいことだと思います。
再スタートの練習
次に再スタートへ向けて、いつ行動を開始したらいいのか、という質問に移りましょう。
Q⒐ 家にいることはいいのですが、家で何もしません。いろいろ声もかけてみたのですが、関心も示しません。時々腹も立ってきます。まだ何かさせるのは早いのでしょうか?
Q⒑ このまま毎日何もしないでいたら、この先もずっとこのままではないか、と不安です。目標みたいものを立てさせたほうがいいのでしょうか。その目安はなんですか?
Q⒒ 親として子どもが今のままでいいとは思っていません。何かさせたいのですが、そのタイミングがわからないのです。タイミングの見つけ方ってあるのでしょうか。それからどの程度のことをさせるのがいいですか。
Q⒓ うちの子は診断名がついていて、病気だと思うのですが、このままでにしておいていいのか心配です。この場合でも目標は立てたほうがいいのでしょうか?
Q⒐からQ⒓の質問は現状を打破したい、という気持ちから発せられた質問です。このような質問も本当によく出てきます。おそらく一番親として聞きたいことではないでしょうか。
質問内容はみな違いますが、根底にあることは、「そっとしておく段階から、いつ次の行動を起こしたらいいのか」ということです。
それでは順を追ってお話します。
不登校や引きこもり初期の時は、枯渇したエネルギー(元気さ)を回復する時期なので、特に何かをさせる必要はありません。
回復期(寝ることでエネルギーを回復する時期)が終了した最初の段階では、家でできる何か決まった事がよく、無理のないもの、簡単にできることがいいです。例えば、食事の支度(後片付け)を手伝う、洗濯物をとりこむなど家の中での役割をひとつ決めてそれを実行する、というようなものです。それを順に増やしていくとよいです。注意点として、決めたことに対しては責任を持ってやらせる、安易に親がやってしまわない、ことがあげられます。親が変わりにやってしまうと最終的にやらなくなってしまいます。これもよい機会ととらえ、自分も家族の一員としての責任があることを教えていきましょう。
「家事の分担」など当たり前すぎたり、簡単すぎたりと思うかもしれませんが、「やらなければいけないことを」「毎日やる」ことが義務的なことに対応する力を育むことの、努力することの反復練習になります。そして簡単だからこそ努力が報われることの体験や達成感を得やすいという利点があります。
家の手伝いをさせることの利点が他にもあります。それは親から信頼され当てにされた嬉しさと家いる申し訳なさが軽減することです。
その次の段階は外に目を向けさせていくことです。
いきなり学校というのが難しい場合、それに近いもの、塾、フリースクール、お稽古事、アルバイト、ボランティア活動などできるだけ定期的に続けられるものがいいでしょう。可能なら学校のクラブ活動からはじめてもいいと思います。大切なことは社会とのつながりを再び結びつけること、自己責任力、努力する力を養っていくことです。
最後は学校へ戻るにしても、あるいは変わるにしても、具体的な進路に沿った目標設定になります。
必ずしもこのような順番で進むわけではありませんが、大枠として持っておられた方が行動に移しやすいと思います。子どもが継続してできるように励まし、承認し、ときには叱りながらサポートしてください。
Q⒓ですが、診断名にもよりますが、ある程度日常生活ができるようでしたら、何か目標、あるいはやることを決めた方がいいと思います。「自分にもできることがある」という自尊感情を育てるのにも有効ですし、人の役に立てる喜びも体験できるからです。
ここで本当によく起こりがちな昼夜逆転生活について触れておきます。
皆さんの中にも現在悩んでいる方、時々そうなっていると思いあたる方、もしかしたらなるかもしれないと不安に思っている方がいらっしゃるのではないでしょうか。
Q⒔の質問をみてください。皆さんならどうしますか。
Q⒔ 今子どもは昼夜逆転の生活になっています。夜にコンビニに行ったり、ゲームばかりしているみたいです。わたしの目には怠けているようにしか見えません。どうしたらいいですか。
Q⒔のような質問もよく受けます。これは怠けているというよりイヤなことから逃げている状態です。朝は社会が動き出す時間です。一番現実を感じる時間でもあります。不登校や引きこもりの子にとって一番苦しくてイヤな時間でしょう。それで、現実逃避のために「寝る」わけです。でもエネルギーは満ちていますから、ずっと寝てはいられません。そうなると当然夜起きだします。家族とも社会とも現実とも顔を合わさなくて楽な時間でもありますから。
そしてこの状況は人との関わりが必要な時期が来ているということでもあります。
この段階まで来たら、一歩前進する時が来たという合図です。親としてちょっと強引にでも対応しましょう。必ず朝起こす、何もしない状態ではおこづかいを絶対に渡さない、何かを要求されても断るなど、かなり厳しい態度で臨んでいくことも必要になってくるかと思います。長い時間昼夜逆転をしている子ほど、必要性が高くなると思います。その際、自分は厳しく接しているが、父親が甘い、祖父母がやってしまうということがないように、必ず方向性を揃えてください。
親がしてくれない以上自分で何とかする状況を作ってください。最初はイヤイヤでも少しずつ動いていきます。
ここまでをまとめますと、目標を立てることも重要ですが、その目標に向かって日々小さな努力を重ねていく充実感ややり通したときの達成感を感じることが、それ以上に大切です。それが自信を育てていくことでもあります。ですから、最初から大きな目標を立てないこともポイントです。もし本人が大きな目標を立てている場合は、その目標を否定するのではなく「もう少し細かく区切っていこうか。まず第一段階の目標として・・・」と現実的な提案をする形で手伝ってあげるとよいでしょう。
「何かをする」=「行動する」=「エネルギーがまわる」ことです。エネルギーをまわすことで前向きな考え方もできるようになります。皆さんもストレスが溜まったとき、スポーツなど思いっきり身体を動かしたらストレスがどこかへ飛んでいった、という経験があると思います。それと同じことです。
子どもが少し元気になってきたら、思い切って提案してみましょう。
それから子どもに目標を提案する目安ですが、睡眠時間が一定になってきたこと(昼夜逆転になっていても)、ゲーム、本など熱中するものが出てきた、食欲が出てきた、などが目安になります。昼夜逆転を戻していくにも効果的だと思います。
Q⒕ それまで全く何もやろうとしなかった子どもがやっと勉強をやる気になったときの話なんです。わたしを待ち構えていて、参考書のことで「今すぐ本屋へ電話して!」と言われたとき、「あとでね」と言ってそのときやらなかったんです。その直後、急に暴れ始めました。それから口もきいてくれなくなりました。あのとき、わたしはどうしたらよかったんでしょうか。
Q⒕は目標を自分で設定し、実行に移そうとしたときに自分の思うようにならなかった例です。
子どもの頭の中では、やっと進路について具体的に進めていけるという期待で一杯だったのでしょう。そしてその自分のやる気(変化)をお母さんに「電話をかけてもらうという形」で見せたかったのだと思います。子どものこころ中では「お母さんに喜んでもらえる」という期待もあったことでしょう。それが期待通りにならなかったため、想像以上にショックで、せっかくのやる気をなくさせた人として、目標に向かって行動しようと決めたことも不発に終わったもって行き場のない落胆そして怒りを母親にぶつけたのだと思います。
このように子どもが行動を起こそうとしているときは、親も即行動を起こしましょう。タイミングをつかみましょう。「あとで」は子どもの次の行動も「あとで」になることもあります。
回復期について
次に「そっとしておく」時期、いわゆる回復期に関する質問を2つみてみましょう。どちらもよく出る質問です。
Q⒖ 本当に学校を休み始めてから毎日寝てばかりいます。ずっとこのままの状態が続き、起きられなくなるのではないか不安です。
まだ休み始めたばかりでしたら、寝続けるのは自然なことです。今は十分休養をとらせてください。人は身体的な疲労も精神的な疲労も睡眠をとることで回復します。またある程度エネルギーの蓄えもあります。それで多少寝不足であっても次の日もがんばれるわけです。しかし不登校寸前の子というのは、蓄えているエネルギーも使いながらがんばっており、通常の睡眠時間では十分回復しないところまできています。エネルギーの蓄えもほとんど空っぽの状態になっています。それが完全にゼロになった状態のとき動けなくなる、ということが起こります。
車の例でお話しますと、通常がガソリン満タンな状態です。一日走らせて減った分を給油する、それが睡眠に当たります。いつもよりたくさん走った場合、ガソリンの減りがいつもより多いですね。いつもの量を給油しても満タンにはなりません。でも余裕がある状態を保っていますので、問題なく走れます。
もしその日から毎日長距離ばかり走ったらどうでしょう?毎日の給油は一定量しかできません。そうなると蓄えている分からまわして使い続けることになりますね。最終的に間に合わなくなり、途中でガス欠で止まってしまいます。
それが、不登校状態の始まりです。
だから最初にすることは、減ってしまったエネルギーを貯めることです。車ならガソリン補給ということになりますが、人の場合は睡眠がそれにあたります。そして、満タンまで貯めるには時間がかかります。何かを考えたり、行動するにもエネルギー(元気さ)がある程度必要です。その間は「うちの子は本当にがんばってきたんだな」と見守りましょう。
Q⒗ 高校一年生の男の子ですが、「わたし(母親)と一緒に寝てほしい」と頼んできて、正直戸惑っているのですが、どうしたらいいでしょうか?
この男の子はとても不安な状態にあるということをまず理解してください。実年齢や身体の大きさを見たら確かに戸惑われると思います。でもそのときの子どものこころはもっと小さい時期にあると想像してください。子どもが小さかったら、きっと何の抵抗もなく一緒に寝られると思います。あるいは女の子の場合でしたら、抵抗も少ないと思います。
では、中学生や高校生になった男の子の場合どうしたらいいかですが、基本的に一緒に寝てあげてください。でも実際は身体も大きいですし、性別も違いますので同じ部屋に布団をならべて寝る形になると思います。寝るときというのは案外無防備な状態で不安も大きくなりますので、そのときにそばにいるということがとても大切です。
わたしのであったケースでも高校二年生の男の子が、同じように母親にお願いしたことがありましたが、その子の場合は母親と同じ部屋に布団をならべて寝るということをしたのですが、五日間で落ち着いたようで、また自分の部屋に戻って寝られるようになりました。
このように不登校初期では、母親に一緒に寝てほしい、と頼む子どもが年齢性別に関係なく、よくみられます。小さい子でしたら一緒の布団に、大きくなっていたら同じ部屋に布団を並べて寝てあげましょう。これは一種の胎内回帰願望です。お母さんのお腹の中ほど安全なスペースはない、ということのあらわれでもあります。ぜひサポートしましょう。
病院・相談機関にかかる
最後に病院・相談機関に関する質問をみてみましょう。
Q⒘ 親としては病院かカウンセリングに連れて行きたいのですが、本人がどうしてもイヤと言うんです。その場合は、どうしたらいいんですか?無理にでも連れて行くほうがいいのでしょうか?
本人が絶対にイヤと言っている場合は、無理やり連れて行くことはやめましょう。その場合は親だけで始めることもいいと思います。保護者がカウンセリングを受けることで、子どもへの対応が変化し、子どもの抱えている不安感を取り除くことができ、子どもが変化してくることもあります。実際わたしが担当したケースでも母親だけが定期的にカウンセリングに通った結果、お子さんが学校に通学し始めた例もあります。
次に口では嫌がっているが、強引に誘えばとりあえず行ってくれそうなときは、お子さんを連れて行く方が良いでしょう。本当にイヤがっているときは、感情的に否定しますし、感情的な反応でないときは引っ張ることがしやすいと思います。カウンセラー、医師、先生(相談員さん)と実際に会って、ホッとしてこころを少しだけでも開く子どももおります。
子どもの引きこもりや不登校等の原因は、社会が多様化するにつれ複雑化しており、時間が経つにつれ問題が悪化するケースがありますので、相談機関には早いうちに行かれることをおすすめします。身体的な病気と同じで早い段階の方が早い問題解決につながります。今は学校にスクールカウンセラーもおりますし、各自治体にも相談機関があります。民間の相談機関も増えております。本人はもちろんですが、保護者の方もご自身のこころの整理や応対力を身につけるためにもカウンセリングをぜひ利用してください。親の精神状態というのは、想像以上に子どもに影響を与えます。
次の質問は皆さんどう考えますか。
Q⒙ 学校のスクールカウンセラーと病院の二か所行っているのですが、言うことが正反対なんです。親としてどうしたらいいのか困っています。
そのようなときは本当に困りますね。専門機関二か所以上にかかるときの一つの指針をお伝えします。
このようなことは残念ながらよくみられます。連携関係にある機関に行かれるのが一番です。
もしQ⒙のような場合になったら、どちらを柱として進めていくか決めてください。もう一ヶ所はそのサポート機関として活用してください。それぞれの機関にその旨を伝えるとさらに効果的です。どちらにも従おうとしたら、かえって混乱し状況や症状を重くしてしまいます。どちらを柱にするか決めるということは、自分たちの考えをしっかり持っておくことが重要です。その上で選択してください。考えている方向性が違ったらそこをやめる勇気も必要です。
もうひとつ、Q⒙と同じような質問です。
Q⒚ 学校の担任の先生とスクールカウンセラーのアドバイスが違うのですが、その場合どちらに従うのがいいのかわかりません。本当に困っています。
この場合は、学校内での連携が取れていないのだと思います。このようなことにであったときは、どちらか話しやすい方に、「言われていることが違うのですが・・・」と言うことが重要です。自分の子どものことですから思い切って言ってみてください。それにより、教師とカウンセラーが話し合ってより良い方向へ進む可能性も大いにあります。
Q⒛ 病院の先生に「腫れ物に触るようにそっとしておきなさい」と言われたのですが、いつまでそのようにしたらいいのでしょうか?
病院の先生に言われたなら、治療方針があると思いますのでその先生に聞かれるほうがいいでしょう。
ただ子どもは親に本気で関わってほしいと思っていますので、腫れ物に触るようには接しているのはあまり効果的でないと思います。これでは親のほうも、自分の中で気持ちと行動の不一致が起こり、ストレスが溜まる一方だと思います。それが子どもへの態度にもあらわれて、子どもは親に対して不信感を抱いてしまうこともあります。厳しい言い方になりますが、子どもの親は自分たちである自覚を持ってください。
親の願いは、皆さん、子どもの自立、そして社会復帰です。その対策は家庭環境や交友関係、そして子どもを取りまく社会環境によって様々です。ですから「これが正しい」ということではなく、ひとつの例としてぜひ参考にしてください。
何回も言いますが、子育てにおいて、不安、悩み、迷いがあって当たり前です。どうか少しでも不安、悩み、迷いが生じたら、お気軽にお電話やメールしてください。一緒に考えていきましょう!